三味線の材料・猫受難の時代
人権に相当する「猫権」はいまでこそ、日本では格段に高まっています。
日本では縄文時代に、穀物をネズミの害から守るためにスタートした人と猫の関係は、
平安時代には貴族の愛玩動物。江戸の世には猫は貴重品。
しかし、かつては猫受難の時代もありました。
三味線が、人々の娯楽として登場した頃、
猫の皮は三味線の材料として使われたことがあり、
1970年代前半に“ネコとり師”の暗躍が報じられています。
たとえば、1971年10月28日の夕刊社会面。
“ネコの敵”ニャロメとご用 三味線用に“密猟” 都内ですでに40匹 大阪から車で上京
こんな見出しが目に飛び込んできます。記事のリードは次の通りです。
三味線の皮にしようと、大阪から遠征してきている“ネコとり師”の暗躍が、
東京都内の愛猫家を脅かしていたが、
二十八日未明ついにその一号が、東京・月島署に逮捕された。
小型トラックに手製のネコとり器を積み込んでやってきた男の自供では、
七月ごろから、浅草、渋谷などで計四十匹とり、
大阪のなめし皮屋にオス三千円、メス千五百円で卸していたが仲間は二百人いるという。
読売新聞より
“ネコの敵”ニャロメとは、「こんにゃろー」と言う意味のようです。
ニャロメは、赤塚不二夫氏の作品『もーれつア太郎』などに登場する架空のキャラクター。
日本初の二足歩行でしゃべるノラネコ。
人間の女の子と結婚することを夢見るが、イジめられたり、失恋したり、だまされたり…
それでも負けない「ニャロメ」。
赤塚不二夫氏と交流のあった美術家のタイガー立石さんの作品のなかで
ネコが「コンニャロメ!」というシーンがありました。
たまたまそれを見た赤塚不二夫氏は、
くじけてもくじけても立ち上がるニャロメにぴったりだと、この名前を採用しました。
ネコとり師が「ニャロメ」なのではなく、
「こんにゃろー」と言う猫の気持ちを表しています。
話はそれましたが、
「ネコとり師」が、三味線の材料にするため、
外を自由に動き回る飼い猫にまで手を出した時代があったのです。
現在では、愛猫が猫生を終えたのち、記念に、と愛猫の皮を使って作ることもあるそうです。
チビちゃんの危機を救う
この報道、“ネコとり師”にネコとり器と、令和の現代では聞き慣れない言葉が出てきます。
記事の本文によれば、ネコとり器の中のマタタビの粉末に引き寄せられ、
うっかりネコとり器に入ってしまった近くの会社員の飼い猫のチビちゃんの危機を、
近所のバーの経営者が救いました。
この経営者はネコとり師の男を見つけるや「ネコとりか」と詰め寄り、
男は「そうだ。お前のネコか」と白状し、かけつけた月島署員に逮捕されたそうです。
記事には押収されたネコとり器の写真が載っています。
そのわきには月島署員が写っているのですが、時代を感じさせる風貌です。
猫の泥棒コスプレは可愛いですが、
猫さらいは可愛くも何ともありません。
被害者の会結成
暗躍するネコとり師を巡っては、東京都台東区のアパート経営の女性が
「ネコ取り被害者の会」を結成したことが報じられています。
受難の年に大奮闘 と見出しにある通り、
当時の猫権は現代と比べれば、はなはだ軽視されていたのは明らかです。
それでも、「ネコ取り」に対抗するために結成したという「被害者の会」のように、
いつの時代も猫を愛し、猫のために奮闘する人たちがいることも確かです。
それらの記事を読むと、ほっとした気持ちになるとともに、
猫受難の時代を忘れてはならないとも思わされます。
今日のヒメちー
なんですと?
猫の皮が三味線に…。
しかも飼い猫をさらうだなんて、許せません。
この怒りをどうして沈めたらよいのでしょう…。
お前の皮も剥いで使ったろかー。
現在の三味線には、猫皮、犬皮、カンガルー皮、合成皮などが使われているそうです。
それぞれ音色の特徴が異なり
猫皮は三味線の音が抜けのよい軽やかな音色になるため、
「鈴を転がしたような音」とたとえられ、愛好家は絶えないのだそう。
津軽三味線は犬、沖縄のサンシンは蛇。
要するに、猫皮でなくては三味線の音色ではなくなってしまうらしい。
現在の、三味線に使われる猫皮、犬皮、カンガルー皮は
海外からの輸入品であると言われていますが…。
伝統芸能とは言え、やるせない気持ちになります。
コメント
装飾や芸術の目的で、生き物の体の一部目当てで命を奪ってしまうってのは、本当になくしていかないといけないもの。
需要があればどうしても供給が生まれ、金銭が絡めばなおさら。
こういったものをまずは絶対に欲しない、望まないっていうことがやっぱ大事ですよね(*´ω`*)